特集:マスターズストーリー(未完)


 ゴルフ西遊記のバックナンバーからマスターズストーリーだけを切り離してみました。

 特集:マスターズ・バックナンバー


 

(1999.2.9掲載)

1999 Masters Story.1

 今日からはちょっと違うよ、ふっふっふっふっふ。みなさんをマスターズの舞台にご案内しましょう。今日からちょっと長くなるけど、オーガスタを僕と一緒に回ります。物語はたった今からスタートです・・・

 

 1999年4月8日、気温はやや低いがすばらしい天気。風は若干、そよ風とは呼べない風が吹いている。中嶋12回目のマスターズ。この舞台はもう何度も経験しているにも関わらず、やはり当日の朝になるとなぜか心がドキドキする。やはり何年経とうが、何回出ようが、マスターズの緊張というものは変わらず襲ってくる。

 スタート前の1時間半、練習場でたっぷり汗を流し、ウォームアップは万全である。しかし、火曜水曜の練習ラウンドよりも心なしかショットが不安定である。やはりここにも緊張が出ているのだろう。

 例年のようにクラブハウスに向かって左側にある、マグノリアレーン左側のアプローチバンカーで練習を済ませる。最後の仕上げとして、練習グリーンで15分ほどパターを練習。この練習グリーンは二段グリーンで、複雑なアンジュレーションがあり、本番のコースに負けず劣らず難しく仕上がっている。

 この練習グリーンを取り囲んでいるギャラリーもたくさんいる。各選手がスタート前の最後のパッティング調整をしているところを見ているのだ。

 いよいよ我々の前の組がティーグラウンドで素振りをし、ティーショットを放っていく。前の組は南アフリカのアーニー・エルス。そしてプレイングパートナーはタイガー。二人ともいいティーショットをフェアウェイへ打っていった。

 たぶんタイガーはスプーンを使ったのだろう。しかしスプーンにも関わらず、右からのアゲンストをものともせずに軽々とバンカーを越えていった。やはりタイガーは並々ならぬパワーの持ち主である。

 アーニーはドライバーを使い、バンカーの上からややフェードボールでフェアウェイ右サイドの素晴らしいポジションにティーショット打っていった。やはり彼も現在の世界のゴルフ界におけるスーパースターである。(つづく)


(1999.2.10掲載)

1999 Masters Story.2

 さあいよいよ我々のスタート時間だ。4月8日11時54分、オーガスタナショナル1番ホール。僕のプレイングパートナーはアメリカのジョン・ヒューストン

 ギャラリーの間を警察官のガードマンに囲まれてティーグラウンドに上がっていく。ティーグラウンドの後方ではスペアリングシートの名札入れに名前が入れられていく。プレイングパートナー“John Huston”と“Tsuneyuki Nakajima”と書かれたボードがはめ込まれる。

 風は右からのアゲンスト。ティーグラウンドの芝は青々としていて、きれいに刈られている。しかし刈り込まれた跡は毎年バンカー方向を向いていて、少し立ちにくい。毎年感じることだがやはり今年も立ちにくい。

 ティーグラウンドは鰻の寝床のように細長く、幅が狭い。すぐそばにギャラリーが立っている。その息づかいが聞こえるほど近くにギャラリーが感じられる。

 ジョン・ヒューストンのティーショット。彼の名前がアナウンスされる。“Now on the tee John Huston”。ジョン・ヒューストンのティーショットは、心なしかヒールボール。しかしまずまずの当たりである。フェアウェイ中央からのフェードボールでバンカーの左角を越えていった。なかなかのナイスボールだ。

 Next, Now on the tee Tommy Nakajima”。名前が呼ばれた。いつもこのようにアナウンスされ、そして今年もまた、このアナウンスからマスターズがスタートする。12回目のマスターズが、今、始まる。(つづく)


(1999.2.11掲載)

1999 Masters Story.3

 思い返せば初めてマスターズに招待された1978年。初めてのマスターズの記念すべき最初のティーショットはひどいフックボール。左の松の木に当たって、確かセカンドは4番アイアンで打った記憶がある。もうそれも遠い昔の話。

 その後はこの1番ホールではいつもいいティーショットを打っている。一度だけ右の林に入れたことはあるが、手が震えたり、足が震えるわりには、比較的いいティーショットを打っていく。ここはそんなホールである。

 中嶋はフェアウェイの先にあるバンカーの一点を見つめ、ドライバーを振った。ボールはやや高めながらまずまずの当たりで、265ヤードで越えるバンカーをきれいに越え、フェアウェイ中央に落ちた。なかなかのティーショットである。さあスタートだ。

 ティーグラウンドを少し小走りに降りる。下り坂に差し掛かった時、ようやく肩から息がふぅ〜っと抜ける。リラックスできるような感じになってきた。

 フェアウェイでは右にも左にも応援してくれる日本人の姿が見える。その姿を見るとやはり、ここに日の丸を背負ってきているということを実感してしまう。本当は自分のためにプレーしたいのだが、この1番を出ていく時にいつも思うことは、あぁ自分の肩には日の丸が乗ってるんだなということである。しかしそれもまた、自分の励みとなることも事実である。

 さあこのゴルフ場を攻めてみよう。中嶋はオーガスタの大地を足で感じながらセカンド地点へ向かうのだった。(つづく)


(1999.2.12掲載)

1999 Masters Story.4

 ジョン・ヒューストンのセカンドショットは9番アイアン。ピンは左のバンカーを越えたぎりぎりのところに立っている。手前から10ヤード、左から4ヤード。毎年ここか、あるいは奧にカップが切られる。今日は左手前のピン。

 ヒューストンのセカンドショットがグリーンを捉える。ところがピンの右4メートルほどに落ちたボールはスピンがやや強く、グリーン手前まで戻ってきてしまう。そうなのだ。これがオーガスタのグリーンの恐さなのだ。少しでも弱く、バックスピンが強いと、すべてグリーン手前まで出てきてしまう。自分の狙った地点に、スピンまでコントロールした球を打たなければならない。これがマスターズの難しさなのだ。

 たとえティーショットがそれほど難しくないホールであっても、セカンドの距離感、特にアイアンショットのボールの回転、スピンの量まで要求されるゴルフ場というのは、世界広しと言えどもここしかない。

 同じくメジャーの全米オープンでも、スピンはかければかけるほどいいというコースがほとんどであり、スピンが多すぎて困るということはほとんどない。しかしマスターズはスピンが多くてもいけないし、少なくてもいけない。どちらもいけないコース、だから本当にセカンドショットに気を使う。

 中嶋のセカンド地点。毎年このコースに来て思うのは、フェアウェイがまるで絨毯のようなのだ。芝目が若干逆目であろうが、若干順目であろうが、そのようなことを問題にさせないほどよく仕上がっている芝生である。芝の目がよくつまっていて、たぶん裸足で歩いても何も問題はないだろう。

 中嶋の残りは、ピンまで138ヤード。右からややアゲンストの風が吹いている。ライはまずまず。9番アイアンで普通のフルショットを打てばいい。特に力を入れて振る必要もなく、意識してスピンを抑える必要もない。この日のためにやってきたオフの練習通りの、いつものショットを打てばいいのだ。(つづく)


(1999.2.13掲載)

1999 Masters Story.5

 意識がグリーンに集中する。ピンの右に1メートル半、そして奧に1メートル半、そこが狙い目だ。9番アイアン持って、素振りを2回。そして静かにボールに歩み寄り、セットアップ。ギャラリーの声も、風の音も何も聞こえない。集中しているのはボールと落としどころ、この2つだけ。

 バックスイングをゆっくりと上げ、そして心地よい手応えとともにボールが飛び出す。よし、狙い通りだ。ボールが飛び出した瞬間に、手応えでそうわかる。ボールは1メートル半右奧にとんっと落ちて、微動だにしなかった。1メートル半のバーディチャンス

 ゆっくりとグリーンに向かって歩く。このコースはどこを見てもきれいだ。左の松の木が心なしか大きくなったように思える。右の木も大きくなったか・・・いや以前からこの程度の大きさだったのかも知れない。そんなたあいのないことを考えながら、キャディと二言三言話をしつつ、笑顔でグリーンに上がっていく。

 マークは日本から持っていった昭和61年の百円玉。マークをして、キャディにボールを渡す。キャディはゆっくりとボールを拭いてくれる。

 その間にグリーン手前からジョン・ヒューストンがアプローチの体勢に入った。たぶんあのクラブはサンドウェッジだろう。上げてくるつもりのようだ。ジョンのクラブが走る。想像通りサンドウェッジでやや止まるショットを打ってきた。やはりうまい。USツアーで優勝しているだけのことはある。いいアプローチだ。ふっと上がったボールは、ピン右30センチにぴたりと止まった。お先に入れてパー。

 さあ次は僕のバーディパットだ。(つづく)


(1999.2.14掲載)

1999 Masters Story.6

 1番ホールのグリーン左にある9番ホールのティーグラウンドに、これからティーショットを打つ選手の姿が見える。ちょうど8番を終わって上がってきたところのようだ。向こうもこっちを見ている。僕は先にどうぞと軽く会釈をし、彼ら2人がティーショットを終わるのを待った。ティーショットが打ち終わり、歩き出すのを見届ける。

 残り1メートル半の下りのバーディパット。狙いはカップの右フチ。心持ち左から風が来てる。ここまで右からのアゲンストだったのだから、右奧につけば当然やや後ろからスライスのフォローの風になる。

 1メートル半。たかだか1メートル半だが、マスターズで1メートル半のパットを無防備に打てば、4メートル先に行ってしまうのは目に見えている。もちろんそれは練習日から百も承知なのだが、やはり実戦の1メートル半とは違う。

 初日のスタートホール、ここはぜひバーディでスタートしたい。そういう気持ちが自分の指先に伝わってくるから怖い。その気持ちがインパクトを心持ち強くしてしまうのではないか・・・そんなつまらないことをいろいろ考えてはいけない・・・心の中で自問自答しながらラインを読む。

 よし決まった。右フチにクリネックスタッチで打てばいい。慎重にアドレスに入り、そしてゆっくりテイクバックする。ダウンスイングに入り、ヘッドがボールに向かう。しかし心なしか、気持ちオーバーを怖がったストロークになり、インパクトが一瞬弛んでしまった。ボールはカップ右フチに蹴られ、50センチオーバー。

 しまった・・・1メートル半をはずしたことに少し悔いを残しながら、1番ホールはパーで終わる。しかしこのホールは実は隠れた難ホールで、難易度は比較的高いほうなのだ。とりあえずここはパーでよしとしなければいけない。マスターズはまだ始まったばかり。まだ71ホールも残っているのだ。(つづく)


(1999.2.16掲載)

1999 Masters Story.7

 2番ホール。ピンクドッグウッドと呼ばれる左へ折れていくロングホール。今年はティーグラウンドが20ヤード後ろへ下がって、ますます右のバンカーが利いてきた。従来タイガージョン・デーリーなどの飛ばし屋は、あの右のバンカーを越えるティーショットを打ち、セカンドショットをショートアイアンで打つような、そんなロングホールになってしまっていたが、今年はそうもいかないだろう。

 ティーグラウンドが20ヤード後ろに下がったことによって、仮にタイガーであっても、よほどいい当たりをしない限り越えていかないだろうし、まして2番ホールでそれだけ叩けるかどうかは疑問である。たぶんバンカー越えではなく、バンカーの左角を狙って打っていくだろう。

 タイガーであればフェードボールでいったとしても、おそらく余裕であのバンカーの先まで飛ばしてくるであろうから、アイアンで2オンさせてくることは間違いない。しかし自分達はそうはいかない。バンカーの左側にストレートボールを打ち、少しでもランを稼いで2オンできるところまで持っていきたい。

 まずジョン・ヒューストンがティーショット。狙い目通りバンカーの左角には出ていったが、少しドローが強すぎる。おそらくあれでは、セカンドショットで左の松がジャマになるのではないか。2オンを狙えるかどうか、微妙なライに行ってしまった。

 僕の番だ。実はドライバーは去年からすごく自信を持てるようになってきているし、今年の冬もいい練習ができた。プロになってこれほどの自信が持てたことは初めてである。本当にドライバーが好きになった。ここでも何も恐れることなく、自信を持って打っていける。

 作戦としては、バンカーの左角を狙うのではなく、あえてやや左目からフェードでバンカーの左角のラインに持っていく。比較的フェードには自信があるし、その作戦を取ることがベストだろう。

 ここでも力みすぎないために、後ろに2、3歩下がり、素振りを2回ほどする。いつものリズム通りだ。そして呼吸を整え、ボールに向かう。スイング。ボールはまるで自分の意志が乗り移ったかのようにいい球筋で飛んでいく。力強さもあった。これならおそらく、2オンが狙える場所まで行っているだろう。(つづく)


(1999.2.17掲載)

1999 Masters Story.8

 ティーグラウンドを下り、歩き始める。フェアウェイの左右には白い花が咲いていて非常にきれいだ。空は青く、白い雲が流れていて、とてもきれいだ。このゴルフ場はなんてきれいなのだろう。毎年毎年そう感じるのだが、なぜか今年はそれをさらに強く感じる。やはりここは聖地なのだ。

 この2番ホールにも初出場の時の思い出がある。1番ホールをボギーとした後、このホールのティーショットがチーピンになり、思いきり左に行ってしまい、そして小川に入ってしまった。おそらくこの2番の左側に小川が流れているなどということは、ほとんどの選手が知らないだろう。もし知っている選手がいたとしても、その小川で苦労した選手はほとんどいないのではないか。いま思えば貴重な体験である。

 セカンド地点。ボールの位置を確認する。少しフックで飛んでいったジョン・ヒューストンのほうが、15ヤードほど前に出ている。しかし予想通り、ジョンのセカンドショットは松の枝がジャマになりそうだ。かなりフックボールのいい球を打たなければ2オンしないだろう。

 僕のボールはいい位置に落ちている。グリーンのフロントエッジまで240ヤード。ダウンヒルで、距離的には十分届く。ピンは右の端、バンカー越えでおよそ2メートルぐらいの位置。ピンプレースを見ると18ヤード奧で、右から4ヤードと書いてはあるが、18ヤードというのはいちばん手前の花道から18ヤードである。ここは逆三角形のグリーン。手前から18ヤードあるわけではない。右からというのも、いちばん右のエッジからの距離であり、右のバンカーとピンの間はおよそ2メートル半というところだ。

 この距離で、しかもこのピンの位置では、直接ピンを狙うのはかなり難易度が高い。よし。グリーン中央を狙おう。突き抜けてもいい。同じアプローチでも、ここは奧からアプローチしたほうが楽だ。その作戦でいこう。スプーンでグリーン中央を狙い、ナイススイングすることだけを考えよう。(つづく)


(1999.2.18掲載)

1999 Masters Story.9

 グリーン上ではちょうど前の組がホールアウトしたようだ。タイガー・ウッズのキャディが持っていたピンが立てられる。前の組の選手(おそらくアーニー・エルスだと思われる)が右のバンカーから打った際に、砂がグリーン上の、特にピンの周りに飛び散ったらしく、それを竹竿のようなものできれいに払っている。どうやらそれも終わったようだ。

 スプーンを持ち、再度方向を確かめる。アドレス、そしてスイング。心地よい感触とともに、球はぐんぐん伸びていく。風も幸い味方してくれている。ぐんぐんぐんぐん・・・よし、そのまま行け! 球はきれいな放物線を描いて、グリーンの中央に落ちる。そしてグリーンの傾斜に沿って少し右に転がり、グリーン奧のカラーの先2メートルほどに止まった。ピンまでは12メートル程度。下りのやや早いアプローチになるだろう。

 ジョン・ヒューストンのセカンドショットはやはり少し狙いにくそうだ。しかし、松を気にしながらもトライする。持っているクラブはおそらく3番アイアンぐらいだろう。3回素振りをし、アドレスする。スイング、これはうまく打った。

 しかし・・・かかりが足りない。足りない足りない。もう少し曲がればいいのだが・・・あぁバンカーだ。しかしナイストライだ。あの位置からのショットだとすれば、ナイストライと言っていいだろう。結果は右手前のバンカーではあるが、うまく打てば傾斜を利用して寄せることができるだろう。

 グリーン付近に来た時、馴染みの顔が一人いることに気づいた。フロリダのジョンさんが観戦してくれている。このジョンさんは、昔僕がアメリカで戦っていた時に持っていたフロリダ州ベイヒルの家の近所に住んでいた、とても人のいいおじさん。彼はパーマーとも親しい。

 彼はベイヒル不動産という会社の経営者。ジョンさんの横に奥さんの姿も見える。よし、ジョンさんにアプローチを見てもらおう。ぴったり寄せてみせるぞ。(つづく)


(1999.2.19掲載)

1999 Masters Story.10

 昨年からアプローチの方法を少し変えた。具体的には、クラブのトゥ側をアプローチで使うようにした。従来はクラブソール全体を地面につけるようにしていたのだが、それを少しトゥ側をつけて、ヒール側を浮かすように変更した。

 このようにクラブの接地面積を少なくすることで、よりパターに近い感覚を出せるようになった。この方法は功を奏している。昨年の後半もこの方法の効果が出ていたし、オーガスタでの練習ラウンドでもいい結果が出た。絶対にいける。

 12メートルのやや下り。球の落とし場所を決める。コツッ。フェイスにはじかれた球が狙った位置に落ち、右からの傾斜に乗ってスゥーと球が伸びていく。速い! 考えていたよりも球足が速い。もういい、止まれ! 球はまるで自分の意志を持った生き物のように、勢いがなくならずに転がっていく。その速度にかげりがあらわれたのは、カップを過ぎてからであった。

 球がその動きをゆるめ、そして静止したのは、カップを3メートルほどオーバーしてからだった。自分としてはいい感じで打った。止まるはずなのだが・・・やはりこちら側からのラインとなると、想像以上に速い。練習ラウンドでチェックはしていたが、試合当日になるとそのスピードがさらに速くなる。

 ジョン・ヒューストンはバンカーからのアプローチ。これもわりと難しいバンカーショットになる。グリーンエッジをぎりぎりに越えた20、30センチ先に、スピンの利いたボールを打たなければならない。しかもその先は、5メートルぐらいスライスしていくラインだ。

 アドレスの際から、比較的軽くフェイスを開いている。テイクバックし、クラブがボールめがけて下りる。これはいい打ち方だ。いいショットだ。ボールを止めるために手で小細工する選手は多いが、彼の場合はそのようなことをせず、フェイスを開いて左上にとんとぶつけていく。いちばんよかった頃の、昔の青木さんとよく似ている。ボールのスピンもいい。これはうまい。うまいが・・・これも止まらない。おいおい・・・3メートルオーバー。このホールはお互いに3メートルオーバーしてしまった。やはりオーガスタのグリーンは油断ができない。(つづく)


(1999.2.20掲載文から抜粋)

1999 Masters Story.11

 どちらが先のパットになるだろう。距離はほとんど変わらない。ジョンを見ると、手を差し出して先に打てというしぐさ。ではこちらからパットすることにしよう。上りのスライス、狙いはカップ左フチより内側。上りのパットなのだから、あれこれ考えずに安心していこう。

 アプローチ同様、パターも昨年開眼した。その通りに打てばいい。ほんの少しハンドファーストにし、左手はしっかり握る、体は動かさない。とん。いい転がりを見せた球は、ギャラリーの拍手とともにカップに沈む。ナイスバーディ。キャディと軽く拳をこつんとつきあわせ、二人で小さなガッツポーズをする。

 ジョンも入れてきた。このホールはお互いにバーディ。まあまずまずのスタートだろう。お互いほんのわずかではあるが、足どりも軽くなる。肩を並べて次の3番ホールへ向かう。(つづく?)